はじめに
ベトナム政府は2025年1月、付加価値税(VAT)の2%減税措置を2025年6月末まで延長することを発表しました。これはコロナ後の経済回復支援として始まり、今回で3度目の延長となります。本稿では、この政策の概要と背景、各業界への影響、そして日系企業が取るべき対応について解説します。
減税措置の概要
政府発行の「政令180」により、従来10%のVATが課されていた一部の商品・サービスに対して、税率が8%に引き下げられました。
対象:
- 一般消費財、飲食、製造など
対象外:
- 不動産、証券、銀行、通信、IT、石炭・化学製品、特別消費税の対象品目
計算方法:
- 仕入控除方式の企業:対象商品・サービスに8%適用
- 簡易課税方式の個人・小規模事業者:売上にかかる税率を20%引き下げ
政策の背景と狙い
景気指標とのギャップ
統計上、2024年のベトナムのGDP成長率は前年比7.09%増と高水準を記録。しかし、消費者の実感は乏しく、財布の紐は固いという声が小売・外食業界から上がっています。
政府の狙い
- 家計の負担軽減
- 内需回復による経済刺激
- 中小企業の収益支援
- 景気回復と税収回復の両立
業界別の影響
小売・飲食
電気代やガソリン代など生活コストの上昇が圧迫要因に。VAT減税による販売価格の調整余地が企業の競争力を左右。
製造業
輸出中心の企業に直接の恩恵は少ないが、仕入原価や国内販売でのコスト削減に貢献。
サービス業
旅行・美容・教育分野などのB2C業態では、価格の柔軟性が収益回復に寄与。
消費と企業活動の実態
国内統計では小売・サービス市場が前年比約9%成長とされていますが、現場の声とは乖離。
- ハイランズ・コーヒー:前年同期比2.5%減収
- サベコ(ビール大手):前年同期比3%増収にとどまる
このように、「消費は力強さに欠ける」という現地企業の声が、VAT減税延長の必要性を裏付けています。
日系企業へのインプリケーション
対応のポイント
- 販売戦略の見直し:減税対象品目を活用し、価格訴求を強化
- 請求書処理の最適化:税率変更に伴う帳票・システム対応を早急に実施
- 業種区分の再確認:自社商品・サービスが減税対象かどうか確認必須
法務・税務上の留意点
TMIグローバルコンサルティングでは、ベトナム現地法規に精通した専門家が、業種ごとの適用有無の確認、請求書の対応方法、税務調査リスクへの対応まで一貫してサポートしています。
まとめ
VAT減税の延長は、表面的な経済指標では読み取れない生活者と企業の「リアルな温度感」を反映した政策です。日系企業としては、この機会を消費者志向の見直しや税務対応の強化に活かすべきタイミングと言えるでしょう。
今後も、ベトナム進出・展開における制度変化を的確に捉えた戦略設計が求められます。
参考文献
- VnExpress(ベトナム)「Giảm tiếp thuế VAT đến giữa năm nay」2024年11月29日付
- 日本経済新聞「ベトナム、減税延長に見る個人消費の弱さ」2025年1月20日付
※本記事は上記の公開情報をもとに、TMIグローバルコンサルティングが分析・執筆したものです。最新の情報については、各関係機関への確認をお勧めいたします。