ベトナム3都市で本格始動する自由貿易区(FTZ)|ダナン、ハイフォン、ホーチミンの制度と優遇措置の全体像

ベトナム最大級の深水港群カイメップ・チーバイ。主要な港湾を軸に3都市で自由貿易区の整備が進む。

グローバルサプライチェーンの生産拠点として存在感を高めるベトナムでは、2025年に主要都市でFTZの設立決定や法的基礎の整備が相次ぎ、2026年はこれらが運用段階へと移る本格始動期を迎えつつあります。

  • ダナンとハイフォン:2025年中にFTZの設立が決定され1、現在は区画の整備と投資家誘致の段階にあります。
  • ホーチミン:2025年12月の国会決議により設立の法的基礎が整い、市による設立決定に向けた手続が進行中です。
  • 2025年12月、首相は、FTZ試行に関する財政省提案を原則承認しました。

なお、FTZ全般を規律する法律や政令はまだ存在せず(2026年7月時点)、都市ごとの国会決議に基づく試行という形が採られています。2

本稿では、▽従来のSEZとFTZとの制度上の違い、▽先行する3都市の動向(具体的な投資優遇措置・インフラ整備の現況)、そして実務上関心の高い▽外貨使用の特例について、国会決議等の一次情報に基づいて解説します。

目次

1. 制度的アプローチの転換。「経済区(SEZ)」と「FTZ」の制度上の違い

ベトナムへの外資進出の主要な受け皿であった「経済区(いわゆる経済特区、SEZ)」と、新設される「FTZ」は、開発目的と関税・通関上の法的地位の両面で性格が異なります。

(1)経済区(SEZ)。「面」による国内経済の底上げ

広大な指定地域に多様な産業を集積させ、インフラ開発・雇用創出・地域全体の経済牽引を主な目的とするモデルです。

工業区(IZ)・SEZに関する政令3に基づき管理され、原則として国内の一般法体系が適用されます。SEZの区域全体が当然に関税上特別な取扱いを受けるわけではなく、域内に「非関税区」が設置された場合に、その部分に限って関税上の特例が適用されます。

非関税区は、輸出入税法4において、ベトナム領土内に位置し、地理的境界が確定し、堅固な障壁で外部と隔離され、税関の検査・監督・管理の条件を確保した経済区域と定義され、域外との物品の売買は輸出入関係として扱われます。このため、輸入品の搬入・保管・仕分け・組立・加工・再輸出の一連の過程では、関税が課されず、通関手続も簡素化されます。

(2)FTZ。「点」での国際物流の最適化を通して高付加価値経済をめざす

主要な港湾や国際空港の後背地に区域を限定するモデルです。

FTZの内部は、FTZごとに異なる生産・物流・商業サービス等のさまざまな「機能区」で構成され、これらの機能区のうち法令上の「非関税区」の条件を満たすものは、税関の検査・監督の下で非関税区としての取扱いを受けます。

非関税区の仕組み自体は、既存のSEZの中にも設置できるため、この構造はFTZに固有のものではありません。FTZの特徴は、非関税区の運用を中核に据えた上で、法人税・土地・労働・外貨等の特例措置を一体的に適用する試行区域として、国会決議で設計されている点にあります。各都市の決議はいずれも、FTZを「特別に優れた、突破的な特例メカニズムを試行するために設立される、地理的境界が確定した区域」と位置付けています。

2. 主要3都市におけるFTZ開発の最前線

①中部・ダナン自由貿易区(Da Nang FTZ)。先行する国内第1号モデル

中部の拠点都市ダナン。国内第1号のダナンFTZがリエンチエウ港と連動して整備されている。

ダナンFTZは、ベトナムで最初に設立されたFTZです。136号決議がリエンチエウ港と連動するFTZの設立を定め、同決議に基づく首相決定5により設立されました。リエンチエウ港周辺および旧ホアヴァン県一帯に非連続の7区画(総面積約1,881ha)が配置され、生産・物流・商業・サービス・デジタル技術産業・イノベーション等の機能区が置かれます。管理はダナン市ハイテクパーク・工業団地管理委員会(DSEZA)がワンストップで担い、投資登録証明書・労働許可証・原産地証明書(C/O)の発給等を一元的に処理します。

(i)主要な誘致産業

半導体、AI・デジタル技術、ハイテク製造、デジタル技術を活用した現代物流、フィンテック等。

(ii)主な投資優遇措置

  • 法人税(標準税率20%)について、
    • 優先分野(ハイテク・戦略技術、イノベーションセンターとR&D、ハイテク裾野産業、クリーンエネルギー車両、鉄道・航空機器(MROを含む)、風力発電設備と再生可能エネルギーインフラ、国際貨物中継・物流施設)の新規投資には10%の優遇税率を30年間適用
    • それ以外の分野には10%を15年間適用
    • 上記いずれの場合も、この優遇税率の適用期間(30年・15年)の中で、当初4年間は免税、続く9年間は税額の50%が減額されます(30年・15年の優遇に重畳して適用6)。
  • FTZ内で働く専門家・科学者・高度技能人材等の個人所得税を10年間50%減額7
  • FTZ内の投資プロジェクトは、住宅建設および商業・サービス用地上のプロジェクトを除き、土地賃貸料・水面付き土地賃貸料が賃借期間全体で免除8
  • 外国投資家は、FTZ内で法人(経済組織)を設立する際、設立に先立って投資プロジェクトを保有し投資登録証明書(IRC)を取得、調整する手続が不要です(決議136第13条5項b号。ハイフォンと同旨の規定です)。その後、2026年3月1日から、FTZ区域外への外国直接投資についても投資法改正によって「ERC先行取得」が可能となり、FTZが投資法改正を先取りした形です。

(iii)インフラ整備の現況と見通し

  • 2026年6月13日、第2区画(約75ha)、第3区画(約500ha)、第4区画の一部(約335ha)のインフラ開発3案件(計約910ha、総投資額15兆250億ドン超)に対し、投資登録証明書が発給されました
  • ダナン市は、2026年第3四半期までに戦略投資家データベースを構築する方針です
  • 周辺インフラでは、リエンチエウ深水港のコンテナターミナル事業について2026年3月に投資家連合(Hateco Group、APM Terminals等)が確定し、第1期は2029年初頭の稼働が目標とされています
  • ダナン国際空港や、ラオス、タイに通じる東西経済回廊(EWEC)との接続を生かした整備が進められており、市はFTZが2030年に域内総生産(GRDP)の8〜9%に寄与するとの見通しを示しています

②北部・ハイフォン自由貿易区(Hai Phong FTZ)。北部最大の港湾都市の大型区

北部最大の港湾都市ハイフォン。ラックフエン国際港などと連動する北部最大規模のFTZが置かれる。

ハイフォンFTZは、226号決議により設立が定められ9、ディンブー・カットハイSEZおよび南部沿岸SEZと連動する形で、市人民委員会に設立、拡張、境界調整の権限が与えられています。これを受けて、ハイフォン市人民委員会4068号決定により設立されました。FTZに関する特例の試行期間は10年です。

総面積は約6,292haで、3つの非連続区域(南部沿岸約2,923ha、ディンブー地区約1,077ha、カットハイ地区約2,292ha)で構成されます。ディンブー地区には、日系企業も多く入居するDeep C工業団地の用地の一部(840ha超)が含まれています。これらの機能区のうち、法令上の非関税区の条件を満たすものについては、非関税区としての税制が適用されます10

(i)主要な誘致産業

半導体(集積回路、チップ、半導体材料等)、バイオテクノロジー、新素材、自動化、ハイテク裾野産業、物流センター、見本市・商業センター等。

(ii)主な投資優遇措置

  • 優先分野(上記1項a号の列挙分野)の新規・拡張投資に対し、法人税10%の優遇税率を30年間適用。最初の4年間は免税、その後9年間は50%減額、優遇期間終了後は15%。優先分野以外は10%を15年間、免税・減額と終了後税率は同条件11
  • 住宅、商業・サービス用地を除き、土地賃貸料と水面賃貸料を賃借期間全体で免除12
  • FTZ内で働く専門家・科学者・高度技能人材等の個人所得税を10年間50%減額13
  • 通常、外国投資家がベトナムで法人を設立するには、先に投資プロジェクトについて投資登録証明書(IRC)を取得する必要がありますが、FTZ内ではこの手続が不要となり、国内投資家と同様の手続(企業登録)のみで法人を設立できます(決議226第10条1項b号)。この特例は優先誘致分野に限定されず、FTZ内で法人を設立する外国投資家一般に適用されます(優先分野の列挙は、別途の「特別投資手続」(同1項a号)に係るものです)。なお、外資への市場アクセス制限業種の確認は引き続き行われ、法人設立後にプロジェクトを実施する場合は法令に基づく投資登録手続を行います。
  • ハイフォン市経済区管理委員会(HEZA)が、市人民委員会直属の機関としてFTZを直接管理し、原産地証明書(C/O)の発給・他機関への照会を要しない事業ライセンスの付与・求人公告手続を要しない労働許可証の発給等を一元的に処理します。

(iii)インフラ整備の現況と見通し

  • 第1号案件として、LG Innotekの半導体パッケージ基板工場(総投資額10億USD)が、2026年の着工に向けて進行中です
  • 2026年7月には、南部沿岸SEZでTien Lang 1工業団地(約596ha)が着工されるなど、区域の整備が加速しています
  • 北部最大の深水港であるラックフエン国際港では拡張が進んでおり、2026年7月には、PSAベトナム等によるコンテナバース4本(最初の2バースは2028年供用開始予定)の整備に関する合弁契約の締結が公表されています

③南部・ホーチミン市自由貿易区(HCMC FTZ)。メガポートと連動する商業・物流型FTZ

南部の経済中心地ホーチミン市。カイメップ・ハ地区を核とする商業・物流型FTZの構想が進む。

ホーチミン市FTZは、260号決議が、98号決議に7a条(ホーチミン市自由貿易区)を挿入したことにより、設立の法的基礎が確立しました。設立・拡張・境界調整の決定権限は、カイメップ・ハ港湾区域と連動する形で、市人民委員会にあります14。2026年7月時点で市による設立決定はまだ発出されておらず、2026年6月に市がFTZ実施指導委員会を設置するなど、設立に向けた手続が進行中です(市の当初目標は2026年第1四半期の設立決定、第3四半期の戦略投資家選定)。

コアとなる区域は、ベトナム最大級の深水港群カイメップ・チーバイに直結するカイメップ・ハ地区の約3,800haが想定されています(同地区は2025年7月の行政区画再編により旧バリア・ブンタウ省からホーチミン市に編入)。将来的には、カンザー・アンビン・バウバン(いずれも現ホーチミン市域)への拡張が構想されており、地理的に離れた複数の区域で1つのFTZを構成する管理モデルが予定されています。各区域の内部は、さらに生産・物流・商業サービス等の「機能区」に分かれます。なお、カンザー国際中継港の建設(投資規模50兆ドン以上)は、戦略投資家を誘致する優先プロジェクトに位置付けられています。

(i)主要な誘致産業

スマート物流、国際商業と中継貿易、越境EC、ハイテク製造、国際会議・展示(MICE)等。

(ii)主な投資優遇措置

  • 優先分野(半導体、AI、R&Dセンター、新素材・半導体材料、ハイテク裾野産業、エネルギー・デジタルインフラ、石油ガス関連の大型構造物、風力発電設備等)の新規投資プロジェクトに対し、法人税10%の優遇税率を20年間適用。最初の4年間は免税、その後9年間は50%減額15
  • FTZ内で働く専門家・科学者・高度技能人材等の個人所得税を10年間50%減額16
  • 商業住宅の建設プロジェクトを除き、市人民委員会委員長が、競売や入札によらない土地の交付・賃貸を決定できます17
  • 規格適合の認証、公表済みの貨物や、ベトナムが加盟する国際条約に基づき適合性評価結果が相互承認された貨物について、輸出入時の専門検査を免除
  • 通常、外国投資家がベトナムで法人を設立するには先に投資登録証明書(IRC)を取得する必要がありますが、FTZ内ではこの手続が不要となり、国内投資家と同様の手続(企業登録)のみで法人を設立できます18

なお、ホーチミン市とダナンには国際金融センター(IFC)が別途設立されており、2026年1月1日には国際金融センターにおける専門裁判所法も施行されていますが、これらはFTZとは別の制度です。

3. 実務上の重要点。FTZ内における外貨使用の特例と制限

ベトナムでは、外国為替管理令19により、ベトナム領土内における居住者・非居住者の取引、支払、表示、広告、見積、価格決定、契約書への価格記載等を外貨で行うことが原則として禁止されています(ベトナム国家銀行の定める許容例外を除く)。FTZでは、この原則に対する特例が国会決議に明文で設けられました。

(1)認められる行為(特例措置)

3つのFTZに関する国会決議は、いずれも、FTZ内に本店を置いて生産・事業活動を行う企業同士が、FTZ内で財・サービスを供給する取引について、外貨建ての価格表示・見積・価格決定・契約書への価格記載、および銀行振込による外貨での支払・受領を認めています20

(2)適用される制限

  • 特例の対象は、FTZ内に本店を置く企業間の、FTZ内での財・サービス供給に係る取引に限られます。FTZ外のベトナム国内企業や個人との取引には、従来どおりベトナムドン建ての原則が適用されます
  • 決済は銀行振込によるものとされ、現金での決済は認められません
  • マネーロンダリング防止法等の一般法令は、FTZ内の取引にも引き続き適用されます

まとめ|ベトナム投資環境の新しい局面

ベトナム政府は、2026年の3都市での本格始動を起点として、2030年までに全国で6〜8ヶ所、2045年までに国際水準の8〜10ヶ所のFTZを整備し、GDPの15〜20%をこれらの区域から創出する長期目標を掲げています。

FTZは、非関税区の仕組みによる関税面の扱いと通関の簡素化、法人税等の優遇、外貨使用の特例を組み合わせた投資誘致の枠組みであり、ベトナムの投資環境の変化を示す動きといえます。各都市で今後公布される細則や運用の動向が注目されます。

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出典・参考文献

  1. ダナン:首相決定第1142/QD-TTg号(1142号決定)、ハイフォン:ハイフォン市人民委員会決定第4068/QD-UBND号(4068号決定) ↩︎
  2. ダナン:国会決議第136/2024/QH15号(136号決議)および改正決議第259/2025/QH15号(259号決議)、ハイフォン:国会決議第226/2025/QH15号(226号決議)、ホーチミン:国会決議第98/2023/QH15号に7a条を挿入する第260/2025/QH15号(98号決議・260号決議) ↩︎
  3. 政令第35/2022/ND-CP号 ↩︎
  4. 輸出入税法第107/2016/QH13号)4条1項 ↩︎
  5. 1142号決定。3都市のうちダナンのみ設立権限が首相にあり、ハイフォンとホーチミンは市人民委員会です。 ↩︎
  6. 136号決議13条5項đ号 ↩︎
  7. 136号決議13条5項e号 ↩︎
  8. 136号決議13条5項d号 。適用対象事業の詳細はダナン市当局が公告しています。 ↩︎
  9. 226号決議9条 ↩︎
  10. 226号決議10条5項đ号 ↩︎
  11. 決議226号決議第10条5項b号 ) ↩︎
  12. 226号決議10条5項a号 ↩︎
  13. 226号決議10条5項d号 ↩︎
  14. 98号決議7a条3項a号 ↩︎
  15. 98号決議7a条8項b号 ↩︎
  16. 98号決議7a条8項c号 ↩︎
  17. 98号決議7a条6項 ↩︎
  18. 決議98号第7a条7項b号(決議260号第1条5項による改正後の規定)。原文『Nhà đầu tư nước ngoài thành lập tổ chức kinh tế trong Khu thương mại tự do không phải có dự án đầu tư và không phải thực hiện thủ tục cấp Giấy chứng nhận đăng ký đầu tư trước khi thành lập tổ chức kinh tế』。出典 LuatVietnam(決議260全文)。官報原本PDFは画像形式のため字句の最終確認は官報原本を推奨。 ↩︎
  19. 国会常務委員会令第28/2005/PL-UBTVQH11号(国会常務委員会令第06/2013/UBTVQH13号により改正)22条 ↩︎
  20. ハイフォン:226号決議10条6項b号 、ホーチミン:98号決議7a条9項b号 、ダナン: 259号決議1条11項b号 ↩︎
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