2025年から2026年にかけて、ベトナムでは投資分野にも影響を及ぼす可能性のある行政簡素化・民間経済重視を目指す法令改正が段階的に進められています。共産党政治局の方針決議を起点に、国会での法改正、政府決議により、短期間で複数の法令が重層的に整備されました。
本記事では、この規制緩和の流れを構成する主要な法令を時系列で整理します。
政策の起点:第66号・68号政治局決議
ベトナムの規制緩和は、2025年4月と5月に相次いで発出された2つの上位決議から始まります。
(1)66号政治局決議
共産党政治局決議第66-NQ/TW号(2025年4月30日、66号政治局決議)は、ベトナムの法制度全体を「管理の道具」から「発展を促進する制度基盤」へ転換するための上位方針として位置付けられ、2025年までに法規定に起因するボトルネックを基本的に解消し、2027年までに行政機構再編に対応する法的基盤を整備し、2028年までに投資・事業法制を完成させることを目標として掲げています。
66号政治局決議を受けて、後述する「66番台」政府決議のような既存法律の特定条項を一時的に修正する規範的決議を発出する権限を政府に付与する国会決議第206/2025/QH15号が採択されました。
(2)68号政治局決議
共産党政治局決議第68-NQ/TW号(2025年5月4日、68号政治局決議)は、民間経済の発展を国家の重要課題と位置付けました。68号政治局決議は「禁止される分野以外は自由に事業を行える」という方向性を示し、具体的な数値目標として、事業条件(条件付き業種)、行政手続の処理時間、法令遵守コストのそれぞれについて少なくとも30%の削減を掲げています。
66号・68号政治局決議の下での法令改正

66号・68号政治局決議の政治的指導の下で、以下の主要な法令改正、決議が行われました。
(1)198号国会決議
(2)2025年投資法および同法施行政令
(3)206号国会決議および「66番台」政府決議
以下順に紹介します。
198号国会決議
68号政治局決議を受けて、国会決議第198/2025/QH15号(2025年5月17日採択、同日施行)が、民間経済発展のための特別な制度的枠組みを定めました。同決議は、事業条件の管理方法を許認可制から届出・事後監査制へ移行する方針を明示し、2025年投資法の改正は、これを経営投資活動に関する規制において具体化するものとして位置付けられます。
2025年投資法・同法施行政令96号
(1)2025年投資法
2025年投資法(法律第143/2025/QH15号)は、2025年12月11日に国会で可決成立し、2026年3月1日に施行されました。ただし、条件付き投資分野・業種リストを定める第7条および附録IVは、2026年7月1日に施行されます。
(2)2025年投資法施行政令(96号政令)
2025年投資法に基づき、政府は、2025年投資法施行政令第96/2026/ND-CP号(96号政令)を2026年3月31日に制定し、同政令は即日施行されました。従来の政令第31/2021/ND-CP号に置き換わるもので、市場アクセス条件や投資手続きの詳細と指針を規定しています。
(3)2025年投資法・96号政令の主な変更点
(i)ERC先行制の導入(2025年投資法第19条2項)
従来、外資企業の設立には投資登録証明書(IRC)の取得が先行して必要でしたが、2025年投資法により、投資家は、企業登録証明書(ERC)を先に取得することも選択できるようになりました(2025年投資法第19条2項)。外資規制(市場アクセス条件)については、投資家は、企業登録申請時に、これを満たすことを誓約し(投資法施行政令第72条3項)、設立された企業は設立後12か月以内に、IRCの取得手続きを完了しなければならないとされています(同条4項)。
この方式を選択した場合、事業自体の開始はIRC取得後でなければならないことは(2025年投資法第8条、26条1項、96号政令第11条1項)従前と異なりませんが、事業の開始準備行為を、設立した会社自身の名義で各種契約を締結する等して、より早い段階から円滑に進めることができるメリットがあると考えられています。
(ii)条件付き投資分野・業種の削減(2025年投資法第7条、附録IV)
2025年投資法により、社会の秩序や安全等を理由とする条件に適合することを要する条件付き経営投資分野・業種について、従来の236分野・業種(法律第57/2024/QH15号)から198分野・業種へ整理されました。38分野が削除され、20分野の範囲が見直されています。
なお、外国投資家に対する市場アクセスの分野、業種及び条件(同法8条)については、基本的に変更がないことにご留意ください。
(iii)事後監査制の導入等(2025年投資法第28条、96号政令第12条4項)
2025年投資法は、特別投資手続を拡大し、事前承認に代わる事後監査型の仕組みを導入したものと解されています。
投資家は、工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、国際金融センター等における投資プロジェクトについて、投資方針承認、技術査定、環境影響評価等の分野における承認や許可を受ける手続に代えて、建設、環境保護等に関する法令の規定に従った条件や基準に適合する旨の誓約書や報告書を提出し(2025年投資法第28条)、発行された投資登録証明書等に従ってプロジェクトを実施する責任を負い、違反した場合には、行政罰の賦課、事業の停止または終了等の措置が取られるものとされています(96号政令第46条ないし49条)。
また、今後、2025年投資法附録Ⅳに規定される条件付き投資及び事業分野を以下の2つに分類したリストの公表が検討・報告されることとされています(96政令第12条4項)。
- 事業活動を行う前にライセンスまたは認証の取得が必要な分野のリスト(事前審査制)
- 事業の要件、条件の公表に基づき事業を開始し、事後的に監査を受ける分野のリスト(事後監査制)
この分類は、条件付き投資分野に対する管理方法を「事前許可」型と「事後監査」型に区分するもので、後述する66.17号政府決議による業種削減とあわせて、規制緩和の中核をなす仕組みです。
206号国会決議と「66番台」政府決議の仕組み
(1)206号国会決議
66号政治局決議で示された法的ボトルネック解消の方針を受け、国会は、法令上の規制から生じる困難及び障害に対する解決策として、国会決議第206/2025/QH15号(2025年6月24日可決、206号国会決議)で特別なメカニズムを設けました。
「法令上の規制から生じる困難及び障害」とは以下の場合を指します:
- 同一の法的文書内または異なる法的文書間に矛盾または重複する規制がある場合。
- 法的文書の規定が不明確で、複数の解釈が可能であり、不合理で非現実的であり、法律の適用と実施に困難を生じさせる場合。
- 法文書における規制が、コンプライアンスコストの負担を生み出す、あるいは、規制が存在しないか、既存の規制がイノベーション、新たな成長の原動力の開発、資源の解放、経済成長の促進、国際統合を阻害する場合。
同決議の第4条1項に基づき、法律の正式な改正手続(国会の賛成過半数による可決)を待たずに、政府決議または国会常務委員会決議によって現行法律の一部規定(人権、憲法に従って法律で規定されなければならない市民の基本的権利及び義務、人権及び市民の権利に対する制限、犯罪及び刑罰、司法手続、並びに行政機構の組織に関する基本原則に関する事項を除く)を一時的に調整することが認められています。この枠組みに基づいて発布される政府決議には「66.1」から始まる専用の連番が付されます(同決議第4条2項)。このような政府決議の有効期限は最長で2027年2月28日までです。
この仕組みにより、後述する66.17号政府決議、66.18号政府決議が、国会での法改正を経ずに投資法附録IVの条件付き業種リストを直接改訂することが可能になりました。
(2)66.17号政府決議:条件付き投資分野・業種の削減
政府決議第66.17/2026/NQ-CP号(2026年5月15日発布、66.17号政府決議)は、投資法附録IV(条件付き業種リスト)を直接改訂する措置です。2026年7月1日から施行され、有効期限は2027年2月28日です。
条件付き業種は198分野から142分野へと削減されます。これは68号政治局決議が掲げた「30%削減」目標に対し、約28%の削減に相当します。
削除される分野の例:
- 再保険、保険ブローカー、保険代理店
- 会計サービス
- 酒類事業
修正される分野の例:
- 外国人に対する賞金付き電子ゲーム事業(96号政令附録ⅣNo.30):カジノ事業とともに賭博事業に含まれるものとされた。
- 水産飼料、肥料(96号政令附録ⅣNo.125、No.142):対象概念を「事業(kinh doanh)」から「製造(sản xuất)」へ限定
なお、条件付き業種からの削除は国家による管理の放棄を意味するものではなく、技術基準、規格、職業基準を策定した上で事前審査から事後監査へ移行することが各省庁に求められています(第4条)。既存の許認可については、有効期限まで引き続き使用できます(第5条)。
(3)66.18号政府決議:行政手続の一括緩和
政府決議第66.18/2026/NQ-CP号(2026年5月18日発布、66.18号政府決議)は、11の省庁(公安省、商工省、科学技術省、内務省、国防省、司法省、財務省、建設省、文化スポーツ観光省、保健省、教育訓練省)の所管にわたる行政手続と事業条件を一括で簡素化する措置です。2026年7月1日から施行されます。主な改正は以下の通りです。
(i) M&A届出基準の引上げ(競争法関連)
経済集中の届出が必要となる基準額がいずれも倍増されました(66.18号政府決議附録I.2)。
- 総資産基準:3兆VND → 6兆VND
- 売上高基準:3兆VND → 6兆VND
- 取引価額基準:1兆VND → 2兆VND
(ii) 事後監査制の導入等(例)
内務省管轄の分野では、以下の事業について、ライセンス発給手続が停止され事後監査制に移行することが示されています(66.18号政府決議附録I.4)。
- 人材紹介業
- 人材派遣業
まとめ:主要法令の施行スケジュール
| 法令 | 発布日 | 施行日 |
| 共産党政治局決議第66-NQ/TW号 | 2025年4月30日 | |
| 共産党政治局決議第68-NQ/TW号 | 2025年5月4日 | — |
| 国会決議第198/2025/QH15号 | 2025年5月17日 | 同日 |
| 国会決議第206/2025/QH15号(特別メカニズム) | 2025年6月24日 | 同日〜2027年2月28日 |
| 2025年投資法(法律第143/2025/QH15号) | 2025年12月11日 | 2026年3月1日(第7条・附録IVは7月1日) |
| 投資法施行政令(政令第96/2026/ND-CP号) | 2026年3月31日 | 同日 |
| 政府決議第66.17/2026/NQ-CP号 | 2026年5月15日 | 2026年7月1日〜2027年2月28日 |
| 政府決議第66.18/2026/NQ-CP号 | 2026年5月18日 | 2026年7月1日〜2027年2月28日 |
2026年7月1日は、条件付き業種の削減(投資法附録IV+66.17号政府決議)と行政手続の緩和(66.18号政府決議)が同時に施行される節目となります。
ベトナムへの投資、M&A、事業拡大を検討されている企業にとって、これらの事業規制の変更動向を注視し、自社の事業展開にどのように活かすことができるか、見直す契機とすることは有効であるものと考えられます。
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出典・参考文献
- 共産党政治局「法令の制定及び執行の刷新に関する決議第66-NQ/TW号」(2025年4月30日)
- 共産党政治局「民間経済の発展に関する決議第68-NQ/TW号」(2025年5月4日)
- 国会「民間経済発展のための特別な制度的枠組みに関する決議第198/2025/QH15号」(2025年5月17日)
- 国会「困難、障害の処理に関する特別メカニズムに関する決議第206/2025/QH15号」(2025年6月24日)
- 国会「投資法(法律第143/2025/QH15号)」(2025年12月11日可決)
- 政府「投資法施行政令(政令第96/2026/ND-CP号)」(2026年3月31日)
- 政府「条件付き業種の削減、修正に関する決議第66.17/2026/NQ-CP号」(2026年5月15日)
- 政府「行政手続、事業条件の分権、削減、簡素化に関する決議第66.18/2026/NQ-CP号」(2026年5月18日)
